式尉 おとうちゃんはあかちゃん
ぽかぽかと暖かい昼下がり。
腕の中で次男がようやく眠り、私は起こさないように籠にそっと寝かせた。
籠の隣には布団の上で大の字になって眠る長男がいて、お腹を冷やさないように薄手の布団をかける。
さて、あとは長女なんだけれど……。
「しきじょー、そろそろねんねのじかんよ」
「あぶー、ばぶぶぁぶばぶ」
ご覧の通り式尉を赤ちゃんに見立てておままごとをしている。
はじめは恥ずかしがっていた式尉も今は恥じらいなど皆無で、寝転がって親指をちゅぱちゅぱ吸う振りをしていた。でかいし筋肉もりもりだし、まったく可愛くない赤ちゃんだ。
そろそろお昼寝をさせようと、私は娘の隣に座る。
「おままごとはやめて、ねんねしようね」
「やだー」
「やだじゃないの」
「しきじょーがねんねしないから、わたしもねんねしなーい」
なるほど、つまり式尉が眠ればいいのね。
私は寝転がってばぶばぶ言っている夫の頭を持ち上げて膝に乗せる。私と娘の話を聞いていたのなら、式尉も父親として協力してくれるはずだ。
私は式尉のふわふわとした獅子の鬣のような髪の毛を優しく撫でる。
「よちよち……式尉はいい子ね。ねんねしようね」
「ばぶぶーあぶぶ、ばぶばおっぱいおっぱい」
「は?」
今この赤ちゃん喋った?――いやいやいくら式尉が助平でもまさか真昼間から子どもの前で言うはずがない。多分聞き間違いね。
私が式尉の頭を撫で続けていると長男が寝言を発した。それに反応した娘が立ち上がり、パッと長男の元へ駆けて行く。
起こさないで欲しいな、と式尉から目を離して子どもたちを見ていたけれど、それが間違いだった。
「あぶぶぅ、まんままんまぁ」
式尉は娘に聞こえないように好色な声色で言ったかと思うと、大きな手を伸ばして下から私の胸を揉みしだく。
最近私が疲れていてまぐわっていなかったせいだとは思うけど、さすがに昼間はやめて欲しい。
式尉の手を掴んで胸から剝がそうと引っ張ってみる。全然離れない。なのに私の胸は痛みを一切感じなくて、式尉はどこにどう力を入れてるの!?
そうこうしているうちに長男を見ていた娘が振り返ろうとする気配を察する。
式尉が私の胸を揉んでいるところなんて見せられない。
意を決した私は、今まさに娘が振り返る直前、二本の指で式尉に目潰しした。
「ヴッ!!」
汚い悲鳴を上げた式尉は、私の膝から滑り落ちて畳の上をごろごろ転がる。
右手で目を押さえているけど失明はしていない。私だって手加減くらいするし、瞼の感触があったから大丈夫。
娘は転がる式尉を見て一瞬びっくりするも、すぐに笑顔を浮かべた。
「まぁ、しきじょーはねがえりがうてるようになったのね」
先日、寝返りを打った次男を見た私の言葉を真似している。子どもは何気ない一言でも覚えているみたい。ううん、女の子だからかな。長男と比べておませさんだ。
うなりながら転がる式尉を見ながら娘がふわぁとあくびを漏らした。今が好機だろう。
私は立ち上がって娘のそばへ行き、長男の眠る布団へ誘導した。
「お兄ちゃんの隣でねんねしよっか」
「んー……うん……」
長男は寝言を発した時に寝返りを打ったみたいで大の字から横向きになって寝ていた。その隣に娘を寝かせ、長男にかけていた布団を引っ張ってかける。
「起きたらおやつ食べようね」
「うん……」
私は布団の隣――畳の上に横たわり、むにゃむにゃとまどろむ娘のお腹をぽんぽんと優しく叩く。
そして娘が眠りに落ちると同時に、転がりすぎた式尉も土間へ落下していった。