戌亥番神 卑猥な本見つけました

俺は最近“こんびに”に通っている。色んな食べ物や飲み物、書籍、日用品などが売られていて見ていて飽きない。勘定場の中には煙草も売っているらしい。俺は吸わないけどな。
そして勘定場の前には透明な箱に入った揚げ物が並んでいて、今度あいつと来た時に買ってもらおうと密かに企んでいる。
今日は“てれび”で見かけた筋肉にいいと噂の“さらだちきん”と弁当を買って帰ろう。そう思っていつものようにこんびにに入ったが、急に催してきて厠を借りることにした。
この時代、厠がある店がほとんどで客は無料で使えるってんだから驚きだ。
黒と赤の人の絵が並ぶ扉を押して中に入り、さらに男性用の厠に入る。
癖がわりぃな、家でしてくりゃよかったと思いながら用を足し、手を洗って店内に戻った。

「ん……?」

視界の端に裸の女体が見えた気がして立ち止まる。振り返ると厠を出てすぐ、裸の女が表紙の書籍が置かれていることに気づいた。何も考えず反射で一冊手に取る。
人妻、中出し、イキ果てる――男を煽るような言葉が並び、露出の多い女の写真にごくりと喉が鳴った。
多分これは春本だ。未来の春本ってすげぇな!明治の春本と違ってまるで本物じゃねぇか!!
女なんざここに来た初日以降抱いてねぇってか毎日が目まぐるしくて処理のことすっかり忘れていたから、なんだかムラムラしてきた。
表紙を見ているだけで息子は半勃ちになり、さらに昼時とあって腹がぐぅと鳴ってしまう。俺は弁当とさらだちきんを買いに来たってのに、どうしてもこの春本が欲しい!
ポケットに手を突っ込んでお小遣いの残りを取り出す。五百七十二円。この春本は税込(なんか物を買うときに税金が取られる世の中らしい)五百五十円。飯が二十二円ってわけがねぇし……春本か飯かどちらかしか買えねえってことだ。
どっちだ……どっちにするんだ俺……。
腹の虫は空腹を訴え、股間の逸物は勃ち上がって主張をする。飯かオカズか――決めた!
俺は書籍を持ったまま勘定場へ向かう。飯は確かあいつが“いんすたんと麺”とかいうお湯を入れれば完成する食べ物を棚に入れていると言っていたからそれを食うことにする。お湯は毎日“ぽっと”で作っているから何の心配もない。
俺は店員のいる勘定場の台に春本を置いた。

「五百五十円です……ちょうどお預かりします。袋は――」
「要らねぇ」
「えっ」

袋は有料だって聞いてるからな。俺は会計の終わった春本を手に取り、こんびにの自動どあから外へ出た。
こうなりゃとことんヤってやる!抜いて抜いて抜きまくってやるぜ!!
……その前に腹ごしらえだな。俺は春本片手に腹を擦り、足早に帰路についた。



「ただいま~……番神?」

今日はカレーにしようと野菜の入ったマイバッグを片手にぶら下げ、私は首を傾げた。いつもならご主人様を待ちわびた犬みたいに玄関まで迎えに来る番神が顔を見せない。
もしかして明治時代に帰っちゃったのかな……。なんだか悲しい気持ちに襲われて、急いで靴を脱いでそのままリビングに向かう。

「番神……?」

震えた小声で名前を呼んでリビングを覗くと床に寝転がって寝息を立てている番神がいた。
よかった、と胸を撫で下ろしたのも束の間、神妙な表情になってしまう。なぜなら番神は下半身丸出しだったからだ。
幸いぶら下がってる竿とか玉は見えてなくて、引き締まったお尻が私の目に映っていた。
それにしても、どうしてズボンやパンツを脱いでいるのだろう。丸まったティッシュもたくさん散らばっているし。なんでゴミ箱に入れないかなー。
マイバッグをテーブルに置いてティッシュを拾うと指にぬるりとした物が付着する。
鼻水かな?花粉症になったのかな?まぁどうせ手を洗うし気にしない!
そんなことを思いながらふと番神の顔を見れば、一冊の雑誌を枕代わりにして(薄いから意味はなさそう)いることがわかった。

「うー……」

なんというタイミング!番神は呻いたかと思うとごろりと寝返りを打って、雑誌の上から頭をどかした。そして私の目に飛び込む『人妻』『中出し』『イキ果てる』といったキーワード。エロ本だ。

「ギャッ!」

丸まったティッシュも手についた物も何なのか瞬時に理解し、口から短い悲鳴が漏れる。
最悪。ティッシュを掴んだままの右手がわなわなと震えた。
番神の尻を叩いて叱ろうかと左手を振り上げたが、穏やかな寝息と子どものような寝顔が目に入り、静かに手を下ろした。
番神は二十五歳でお年頃だし、令和に来た初日こそ私といたしてしまったけれどそれっきりで“そういったこと”は久しぶりだったに違いない。
なんでそう思うかというと、いつも私の気配には敏感なのに今はぐっすり無防備に眠りこけているからだ。
それに慣れない環境で我慢して頑張っている彼を思うと叱るなんて間違っているよね。

私は立ち上がってゴミ箱に向かい、持っていたティッシュを捨てる。そして洗面所で手をよーく洗ってから寝室に入ってベッドの上でぐしゃぐしゃになっているタオルケットを掴んだ。
リビングに戻ると番神は相変わらず気持ちよさそうに眠っている。
筋肉ごりごりだから体温は高い方だと思うんだけど、エアコンの風が直に当たっているからさすがに風邪を引きそうだ。
タオルケットをかける際、番神のお尻にピタッと手を当てると案の定ひんやりと冷えていた。
風邪を引かないように、たくさん寝て疲れが取れるようにとごわごわしたドレッド頭を撫でる。

「カレー、たくさん食べてね」
「う……ん……」
「ふふ」

まるで返事のように声を漏らす番神が可愛くて、思わず笑い声が漏れた。
テーブルに置いていたマイバッグを持ち、リビングからキッチンに移動して再び手を洗う。体力をたくさん消耗した番神のためにルーひと箱分の野菜ごろごろカレーを作ろう。
うちの炊飯器は五合炊きだったから……ザルに五合分のお米を入れてゆっくりと研ぎ始める。
市販のルーだから不味くはないけれど、それでも美味しいって言ってくれるといいなぁ。
口いっぱいにカレーを頬張る番神を思い浮かべ、私は口元を緩ませるのだった。

2023.08.24