戌亥番神 二の腕
今日泊まる予定の宿場町が見えてきたところで、私は隣の番神へ目を向けた。
番神は数分前からずっと私の二の腕をむにむにと揉んでいる。無言の時も雑談の時も揉む手を止めない。
「ねぇ、何で揉んでるの?」
私のこのぷにぷにとした箇所になぜ執着するのだろう。気になって番神をじっと見つめる。
「二の腕の柔らかさは胸と一緒って聞いたから揉んでる」
「え……もしかして胸揉みたいの?」
「うん」
「私の胸?」
「……うん」
てっきり「そんなわけねぇだろ!」って返ってくると思ったのに。
番神は子どものような返事をした後、恥ずかしくなったのか俯いてしまった。
二十代半ばの男が恥ずかしがっていると思うと可愛い。
私と番神の関係は曖昧で、下ネタを平気で言い合ったり、今みたいに相手の体に触れたりするけど、恋人同士ではない。まぁ私は番神のことが一人の男性として好きだし、多分向こうも同じ気持ちだろうと薄々感じている。
今までずっと足踏みしていた私たちだけど番神が一歩踏み出したから私も一歩踏み出してみよう。
「今日一番高い宿を誰か用意してくれないかなぁ。そしたらその人に揉ませてあげるのに」
「今日!高い宿泊まろう!!」
「ほんと?番神が宿取ってくれるの?」
「おう!!」
「……揉むだけでいいの?」
「はァ!?それ以上シていいのかよ!!」
「高い宿取ってくれて~、私のこと好きって言ってくれたらなぁ」
「わかった!!俺様に任せろ!!」
番神は二の腕をずっと揉んでいた手を離し、宿場町へ向かって勢いよく走り出した――かと思うとピタッと立ち止まって振り返る。
「好きって宿で言うからな!」
すごく嬉しそうな顔で私に宣言し、番神はまた走り出した。
あぁもう本当に可愛い。二回目の好きが楽しみでにまにまと顔がにやける。今日のお風呂は念入りに済ませなくちゃ。
私は今夜二人で過ごすことになる布団の中を想像しながら、宿場町へ消えた番神の背中をのんびりと歩いて追いかけた。